柳蔭
CONCEPT
焼酎とみりんで仕立てた、
江戸時代の“カクテル”
柳蔭(やなぎかげ)は、焼酎とみりんをほぼ等分に合わせた江戸伝来の飲み物です。
上方では「柳蔭」、江戸では「本直し」と呼ばれ、江戸時代には井戸で冷やして楽しむ夏の酒として親しまれました。
浮世絵が伝える涼の情景に重なり、落語で客にすすめられ、狂歌に詠まれる——酒の名としてだけでなく、ひとつの文化として、江戸の暮らしのなかにありました。
かつて高級酒であったみりんを“糀のリキュール”として現代に再定義する「Me」から、みりんが「飲む酒」として親しまれていた原点に立ち返る一杯をお届けします。
STORY / 二つの名
上方で「柳蔭」、
江戸で「本直し」。
上方(関西)
柳蔭
やなぎかげ
川辺に垂れる柳の木陰で、涼をとりながら飲む。その情景をそのまま名にした呼び名です。当時は夏に飲まれる酒であり、涼をとる心地よさと、それを味わう「粋」がひと続きになっていました。
江戸(関東)
本直し
ほんなおし
焼酎の荒さを、みりんの甘みと旨みで整える。当時の焼酎には雑味の強いものも少なくなく、みりんを加えることで口当たりがまろやかになることが語源と言われています。
DOCUMENT / 守貞謾稿
文献によむ「柳蔭」

右の行から「京坂夏月ハ夏銘酒柳蔭…」と続く
京阪夏月には夏銘酒柳蔭と云を専用す。江戸本直しと号し、味醂と焼酎を大略半之に合せ用ふ。ともに冷酒にて飲む也
── 江戸後期の風俗誌『守貞謾稿』より
京・大坂では夏に「柳蔭」という銘酒を好んで飲む。江戸ではこれを「本直し」と呼ぶ。みりんと焼酎をおおよそ半々に合わせ、どちらも冷酒で飲む。
CULTURE / 古典落語「青菜」
落語と柳蔭。
真夏の昼下がり。庭仕事を終えた植木屋が、大きなお屋敷の主人から一杯振る舞われます——それが「柳蔭」です。この落語のなかで柳蔭は、ただの酒ではなく「もてなしの上等さ」をひと目で伝える小道具として使われています。
一 お屋敷にて
「植木屋さん、精が出ますな。よろしければ一杯いかがですか」
縁側に招かれた植木屋に、主人が出したのは「柳蔭」。焼酎とみりんをほぼ等分に合わせ、井戸で冷やして飲む夏の酒です。続いて鯉の洗いまで振る舞われ、植木屋はすっかり上機嫌になります。
「ときに植木屋さん、菜はお好きですかな」
「へい、大好物でございます」
主人が手を叩くと、奥さまが手ぶらで現れて、こう言います。
「旦那さま、鞍馬から牛若丸が出でまして、その名も九郎判官(くろうほうがん)」
「ああ、義経にしておこう」
全文を読む
落語「青菜」/監修:鈴々舎馬桜 師匠
落語「青菜」
第一場 お屋敷にて
真夏のある昼下がり。植木屋が大きなお屋敷での庭仕事中に木陰でひと息ついていると、主人から声がかかります。
「植木屋さん、精が出ますな。よろしければ一杯いかがですか」
縁側に招かれた植木屋。主人が出してくれたのは、上方から取り寄せた「柳蔭」という酒でした。焼酎と味醂をほぼ等分に合わせ、井戸で冷やした夏の冷用酒です。続いて鯉の洗いまで振る舞われ、植木屋はすっかり上機嫌になります。
「ときに植木屋さん、菜はお好きですかな」
「へい、大好物でございます」
主人が手を叩いて奥に声をかけると、奥さまが台所からやってきました。ところが、こんなことを言います。
「旦那さま、鞍馬から牛若丸が出でまして、その名も九郎判官(くろうほうがん)」
植木屋は何が何だかわかりません。すると隠居が涼しい顔でひとこと。
「ああ、義経にしておこう」
奥さまは静かに下がっていきます。植木屋は来客でもあるのかと思って腰を浮かしますが、主人に押しとどめられます。
「これは夫婦の隠し言葉でしてね。じつは、菜はすでに食べてしまってもうない。客の前でそのまま言うのは気まずいので、妻は『菜(な)を食ろう=九郎(くろう)』と知らせ、私が『よしとけ=義経(よしつね)』と返したのです」※
第二場 長屋にて
帰宅した植木屋、女房に早速この話を聞かせます。
「てめえなんざ、亭主の顔を見るなりがなりたてる。同じ女でも、お屋敷の奥さまとはわけが違う。あんな上品なまねは、てめえにゃできまい」
「それくらい言えるよ」
言い合っているところへ、建具屋の半公がやってきます。植木屋は「これは格好の相手だ」と、暑いと嫌がる女房を無理やり押し入れの中に押し込みます。お屋敷のように「次の間」はないので。
「植木屋さん、精が出ますな」
「植木屋はてめえだろ。おれは建具屋だ」
それでも植木屋はひるまず続けます。
「上方の柳蔭をご馳走しよう」
「ただのなまぬるい濁り酒じゃないか」
「鯉の洗いもどうぞ」
「イワシの塩焼きじゃないか」
それでも何とか引き留めて、いよいよ核心へ。
「ときに植木屋さん、菜はお好きですかな」
「大嫌いだよ」
想定外の答えです。隠居は「大好物です」と答えたのに、半公は嫌いだと言い張ります。植木屋は半泣きで頼みます。
「そこは好きと言ってくれなきゃ話が進まないんだ。頼む」
「……わかった。食う」
「おーい、奥や!」
植木屋が手を叩くと、押し入れからずいぶん待たされた女房が転がり出てきました。真夏の蒸し暑い押し入れに閉じ込められ、汗だくで埃まみれ、蜘蛛の巣を顔に引っかけた状態です。半公は腰を抜かします。
女房は疲弊しきっており、段取りをすっ飛ばして一気にまくし立てます。
「旦那さま、鞍馬から牛若丸が出でまして、その名も九郎判官、義経!」
最後の「義経」まで全部言いきってしまいました。
本来、そこは亭主が「義経にしておけ」と粋に返すはずだったのに、女房がしまいまで言ってしまったので植木屋には言う言葉が残りません。
しばらく考えた植木屋、苦し紛れに絞り出すように一言。
「……弁慶にしておけ」
※ 隠し言葉の仕掛け 解説
「九郎判官」とは源義経の幼名・牛若丸と官位名を合わせた呼び名です。
「菜(な)を食ろう」→「名を九郎(くろう)」、「よしとけ」→「義経(よしつね)」この言葉遊びを使い、客の前で「菜はございません」と直接言う無粋を避けた、夫婦だけの隠し言葉だったのです。植木屋はその風流なやりとりにすっかり感じ入り、「さすがはお屋敷の奥さまだ」と感心しながら長屋へ帰ります。
HISTORY / 江戸期のみりん
みりんは清酒のおよそ三倍。
柳蔭は、憧れの一杯だった。
江戸時代、本みりんは清酒のおよそ三倍の価格で取引されるほどの高級酒だったと考えられます。今でいえばリキュールに近い位置づけです。焼酎とそのみりんを等分に合わせるのが柳蔭で、庶民にとっては、ふだん手の届かない一杯だったはずです。

LINEUP
江戸を伝える、現代の柳蔭。
※ 現在は予約受付を行わず「告知のみ」です。ローンチイベントは招待制で、一般の参加募集は行いません。価格・商品の詳細は決まり次第、このページと商品ページの両方を更新します。
図版・引用の出典
- 梅蝶楼国貞『源氏姿涼の図』慶応元(1865)年・木屋宗次郎/国立国会図書館デジタルコレクション(請求記号 本別9-28)
- 喜田川守貞『守貞謾稿』/国立国会図書館デジタルコレクション
- 『江戸買物獨案内』429コマ(国文研撮影/味の素食の文化センター蔵)[CC BY-SA 4.0]・一部トリミング
- 古典落語「青菜」/監修:鈴々舎馬桜 師匠
お酒は20歳になってから
20歳未満の方の飲酒、および飲酒運転は法律で禁止されています。妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。お酒は適量を。